供給者側使用者側双方の立場から考えてみましょう。

供給者側:

処方全情報を提供できる場合が全くないわけではありません。しかし一般的には、処方の全情報は自社製品の価値そのものであり、その漏洩にはライバルによる模倣の恐れのみならず、顧客がその製品を使わない別の方法を採用するなどビジネスを失う恐れや価格交渉力を下げる恐れがあります。法も適合性判定に必要な情報を求めているだけで必ずしも全情報の説明を義務付けているわけではありません。しかし、どこまで提供すれば十分かは器具容器包装製品が完成した時点で定まるため原材料段階では全成分の情報を提供する以外に確実な方法がありません。
逆に、完成した器具容器包装について自社以外から供給される成分をすべて把握できれば、その情報を使って適合しているかどうかの判定結果を伝え、自分が供給する原材料の処方情報を隠すこともできるはずですが、そのような方法がとれるのは使用者側が成分に影響する加工は全く行わないなどサプライチェーンの最終段階に近い場面の取引や、原材料供給者も加わった共同体で製造する場合などに限られます。

使用者側:

市場を支配するほどの大手であれば供給者から全成分情報を聞き取ることは不可能ではないかもしれません。どこまで成分情報を提供してもらえれば判定可能になるか情報が提供されるまで不明であり、確実に判定できるようにするため使用者側が全情報を求めることにも一理あります。しかし使用者側にとっては、供給者側の情報を把握することよりも、法適合性を確保することが事業の本質で、一般的にはできることならその原材料を使用しても法適合すると供給者側から保証してもらいたいと考えています。取引相手の営業秘密情報を得ることに交渉力を高める効果が全くないわけではありませんが、必要以上に求めることは優越的地位の濫用に該当する恐れがありますし、当該原材料調達を不安定にする恐れがあります。
使用者側における加工について他の原材料の成分を含めて供給者側に提供すれば供給者側で適合性を判定してもらえるようになりますが、別の原材料情報を提供するにはその供給者の了解が必要で、そうした他の原材料がない場合や、一貫したビジネスを協力し両社で分業していて使用者側における加工プロセスをそもそも供給者側が承知しているなど例外的なケースに限られます。